戦後の日本における都市部への人口の集中、地方の過疎化の流れは、地縁・血縁による地域共同体の喪失を促進させ、地元で代々受け継がれてきたお墓の形態やお墓に対する人々の意識も大きく変化させています。人々の地域共同体からの離脱はお墓の流動化、無縁化、個人化を促し、都市部へのお墓の移転や地縁・血縁に捉われない共同墓などを増加させる契機となりました。
こういった新しい流れは、1990年代に入り、お墓の無形化の波を生み出していきます。樹木葬や散骨などといった形のないお墓や墓地は、家族関係を基本としないだけでなく墓石という形をも必要としていません。そのため、墓地・霊園の開発のいらないこれらの埋葬形態は、近年、環境保全という点からも注目を集めており、人々の選択肢のひとつに挙げられるようになってきました。また、こうした形のないお墓が増加している要因として、人々が自らの死後を選ぶ自己決定権を重視するようになったということもあるでしょう。
樹木葬とは、墓石ではなく墓碑として樹木を指定した埋葬方法のことです。
遺骨を自然に還し、故人が樹木として生き続けるという発想は散骨に近いものですが、樹木葬は遺骨を土中に埋葬するため、散骨と違って墓埋法が適用されます。
日本では1999年に岩手県一関市に初めて樹木葬墓地が登場しました。里山がそのまま墓地となる自然な埋葬法として注目を集め、現在では全国に6ヶ所の樹木葬墓地が開設されています。樹木葬墓地は基本的に宗教宗派を問いません。また、一般のお墓と比べて費用が格安です。
散骨とは、遺体を火葬した後の焼骨を粉末状にし、海や山、宇宙などで撒く埋葬方法のことを言います。我が国においても奈良時代には一般的な葬送方法として行われていた散骨ですが、1998年(平成10年)に法務省が「散骨は節度をもって行われる限り規制の対象にはならない」との見解を示したため、近年になって再び注目を集めています。 散骨には埋葬許可証も分骨証明書も必要はありませんし、難しい知識が必要のないものです。しかし、法律的に未整備の面があるため、トラブルを引き起こさないよう自主的な配慮が必要となります。また、散骨サービスを行っている葬儀社もあります。
まだ一般的ではありませんが、インターネット上のお墓も出現しています。故人の写真や情報を登録し専用パスワードでアクセスすることにより、世界中どこででも供養をすることができるバーチャルなお墓です。また、実際のお墓がある場合でも、都合によりお墓参りが困難な方のために、ネット上のお墓が利用されるケースもあります。